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本文は、平成12年11月当麻町広報誌「我が郷土」に掲載された文章を加筆、修正したものです。


「自分一人では何もすることは出来ません。しかしみんなの力を結集したなら、個人経営では出来ない、より高い品質の農産物を作ることが出来るはず、そこから新しい展望を見いだしたい。そう思って日々農業に取り組んでいます。」 米などの有機農産物の生産・販売に取り組む農業生産法人有限会社当麻グリーンライフを立ち上げた中心人物、瀬川は力強く設立当初からの狙いを話す。 年々の自主流通米価格の暴落を受けて、全道の稲作農家が抜本的な経営見直しを迫られた1998年の4月15日。 当麻町の農家12戸は、一口5万円の出資金を出し合い、経営を一つにまとめた。資本金630万円。耕地面 積の合計は水田169?、畑34?。販売目標額5億円の共同経営体を誕生させた。 「米価が下がる、そして回復の見込みもない。その収入減を補うはずの野菜、それをいくら作っても報われない。5年先、10年先を考えた時、そんな農業を誰が続けるというのだろう、食べていければ事が済むという次元ではなかった。」 共同経営を行う意味は環境重視という時代の要請に応えることや共生のユートピアのみを目指していたのではなかった。一人ひとりが生き残りをもかけていたのだと設立の背景を振り返る。 この行き場のない沈滞ムードに風穴をあけたのが、グリーンライフの立ち上げ構想。これほどの規模の農業生産法人が生まれるのは、北海道においてかつてないことだった。


法人設立の母体となったのは、1990年に町内に結成された「当麻グリーンライフ研究会。」 町内50戸の農家により構成された同研究会は、安全性と食味を追求した無化学肥料、低農薬の米を消費者に直接提供することを目的として結成。  特別栽培米制度により消費者と同研究会の間の直接契約に基づき販売する米の名称は「とっとき米」。品種はきらら397を使用。「とっておきのお米を、お譲りします」という意味合いから名付けられた。 消費者と生産者が直接契約をかわすことから、必然的に互いの顔がよく見える関係を構築できるところがこの特別 栽培米の利点。ならば、おのずと安全でおいしいものを作ろうとする。そこで元来先端を行く当麻の農業者の技術が光った。 食糧事務所による検査体制が残っているとはいえ、それまで味わうことのなかった消費者とのつながりが生産者の品質向上に懸ける思いを高揚させたのだ。 また、それまで自分たちとは違う人が行うものと考えられがちだった有機農業に対し、生産者の目を開かせたのは消費者と密なつながりをもったからこそだったとも言える。 95年のピーク時には2万戸の消費者に対し2万俵のとっとき米を出荷する。紛れもなく北海道でもトップクラスのブランド米だった。 その後、消費者の要望と来たるべき農業情勢に対応できる農法をとるため、有機栽培への度を増していく中、同研究会のメンバーも一時のピークだった212戸から36戸までに激減していく。ただ消費者の需要は変わらない、最も会員数が少なくなったグリーンライフ研究会最後の年でも販売量 は14857俵、相変わらず食卓の「安全でおいしいものを」というニーズに変化はなかったのだ。そして、そんな中での法人設立へ向けての動き。 共同・共生という理想の現実とともに、現実的には自主流通米の価格暴落が直接の理由。しかし他の理由もあった。任意の団体としては扱う金額が大きくなりすぎたということ、そして何よりも消費者の関心は確かな有機農産物や加工品にある、だが、それに応える生産・販売体制は取られていなかったのである。 当初は当時の研究会会員のほとんどが法人化へ向けて動き出すということも期待された。しかし、まだ見ぬ 共同経営に不安が暗躍するのは当然のことだったかもしれない。また有機や無農薬、無化学肥料栽培など、手間のかかる農業に取り組むことはコストが高く付くことになる。 説明会を開くたびに1戸または1戸と参加者が減っていった。 そして、最後に残ったのはわずか12戸、しかし彼らの決心は揺るがない。準備期間わずか1年で、大くくりの経営一本化が決まった。


グリーンライフの経営状況は上向き、今年初めて収支が黒字に転じそうだ。 しかし瀬川は言う、「まだまだこれからが勝負。共同経営のメリットを生かし、作付体系の改善、PR活動など、お客様に自分たちの理念を理解していただく努力が必要だと感じている。」 春先のハウスかけや田植え、防除、収穫など、集中作業を効率よく適期を逃さずこなせるなど、共同経営のメリットが徐々に表れてきた。  さらには法人化したことで、雇用保険や社会保険も充実し、対外的な信用力も増している。 また、消費者向けに安全な農産物の積極的なPRは、インターネットやアンテナショップをキーに大きな効果 を発揮してきた。それが新たな顧客を掘り起こしていく。JR当麻駅構内にある有機農産物の直売所「アグリステーションTOHMA」がその発信拠点、グリーンライフの直営店である。 有機、無農薬、無化学肥料、減農薬、アイガモ農法など、作り方にこだわった主力のブランド米や新鮮な野菜、豆、卵、きのこ類、その他豆腐やトマトジュース、アイスクリームなどの豊富な農産加工品が、店内にずらりと並ぶ。また、ネットワークを組んでいる当麻有機農業を考える会メンバーらの商品も扱っている。地元や近隣市町村の主婦らの人気もじわりと広がり、買い物客が年を追うごとに増えている。 そして、それぞれの作物を生産するのにあたって、我々が特にこだわりをもっているのは「土づくり」。 我々の農法のベースとなる「土こうじ」は、新しい無菌の山土と粘土にこうじ菌を混ぜて作る。作業は年中通 して行われるが、菌が死滅しないよう土の温度が50℃を越えるとショベルカーでかくはんする。 社内にオーガニック推進課があり、毎日このような資材を作る。今までの農業者は全体作業の一部の時間を土づくりにあてていたので、毎日このような作業をする人がいるのは奇異に見られるかもしれない。 うす茶色のこの土に手を触れると、さらさらしていて温かい、まさに生きている土。ほのかに甘いこうじの香りが心地よく、食べ物を作る土だと言うことを実感できる。有機農業にとって自然環境との調和と共生が必須条件。こうした資材を使用して土壌微生物のバランスを整えることにより病害虫の発生も少なくなる。さらには良食味で安全でかつ栄養価の高いバランスの採れた農作物の収穫が可能になる。 樹木の根や木材のチップ材を主体にもみ殻を混ぜ、1年以上熟成と切り返しを繰り返した「木くず堆肥」も年間で1500トン使う。わらを使った堆肥と比べ、含水率は7倍以上と高く、干ばつに田畑が見舞われても作物は枯れにくい。 有機農産物の生産は、当然ながら慣行栽培に比べて手間がかかる。しかし、土づくりも品揃えも個人経営ではなかなかここまできめ細かいことは出来ないのではないか。当社の「農」に対する考え、それは農業それ自体が自然生態系の破壊の上に成り立っているのだと認識することである。だからこそ、限りなく自然に逆らわない、環境に負荷をかけない農業を目指してきた。それは将来に向かって長くやれる農業で、行き着くところ、それが生産者にとってもお客様にとってもプラスになるのだと考えている。逆にそう考えなければ草取りで荒れ果 てた女性陣の手、流れ落ちる汗はいつまでたっても報われない。 精魂傾けたこだわりの土づくり、除草剤に頼らないが為の夏場のつらい草むしり、農産物の品質の良さ、気の利いたパッケージ化が実を結んでいるというのは予想通 りであった。 その一方で、消費者のニーズに応えようとするこだわりが、共同経営による規模拡大という一番のメリットを相殺し、生産コストの増加を招いてしまったというのは紛れもない事実である。有機農業にこだわりすぎたゆえの結果 かもしれないと見る向きもある。 しかし、今までこだわってきた競争力のある良質な農産物を、独自に開拓した消費者に直接提供する手法、それは変えるどころか、今後更に押し進めていく考えである。それは広い視野に立脚し、農業情勢を考えたときにおのずとわかってくるはずである。


1994年4月、モロッコのマラケシュで110の国と地域が7年7ヶ月もめぬいたガット(関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイラウンド交渉の最終文章に署名した。 それまで聖域として扱われ協定の対象外としていた農産物などに、厳しくガットルールを適用することを関係各国が「原則承認」し、その当然の帰結として、各国が自国農業に対して行っている保護政策に、共通 の枠をはめて削減していくことに合意したのだ。それを受けて我が国の戦中戦後を通 じて米を国家管理のもとに置いてきた食糧管理法は廃止され新食糧法が施行。他産業と同じく農の世界においても自由競争に勝つこと、いかに他と違ういいものを作れるかが生き残りの道となったのだ。 また改正JAS(日本農林規格)法にのっとって、2001年4月からは自称「有機」が認められなくなる。 これまで「信号のない交差点」のような状況だった有機農産物に関し、JAS規格の検査に合格した農産物や加工食品以外、「有機」の表示をしてはならないという内容で、生産者が米や野菜、果 物などを有機農産物として出荷する際は第三者機関の認証を受けることになった。 「有機低農薬栽培」「有機減農薬栽培」などの紛らわしい表示も規制の対象となり、違反した場合は50万円以下の罰金が科せられる。 この結果、真面目に「有機農業」に取り組んできた生産者にはその証しが担保される一方、消費者には安全で環境の保全に配慮した農産物、加工食品であることが一目で分かることになる。長い視点で見ると、地球環境に対して負荷をかけない「持続可能な生産」に結びつくということ。実際、外食産業や商社の一部は、認証されない農産物を品ぞろえから外そうとしている動きがある。 こうした流れは当社にとっては当然のことで 、農業が本来あるべき方向に向かっているだけのことと受け止めている。現在、販売している米の10%、野菜のほぼ100%が即この有機認証の対象になると考えていて、米に関しては限りなくその率の上昇を目指している。 厳しい有機の基準を満たすということが、当社の独自性を消費者に対して際立たせるための一つの方法と考えているのだ。 しかし目先の利益や自らの生き残りだけのために行動を起こしているのではないということも強調せねばなるまい。今まで当社では積極的に農業研修生を受け入れてきた。その数は5人。現在も4人が研修中だ。その方針は今後も変わりない。それは自分の生きている時代だけで目指すべき農業の完全な姿を到底見ることが出来るものではないと考えているからである。 有機農業を『人にやさしい農業』と捉えると、それはおなかを満たすだけではなく、日々の健康を維持・向上させ、子や孫の遺伝子の安全性まで保証しなければいけないものだということが理解できる。それは狭いエリアの中、一代・二代で成せるものではなく何十年、何百年という長いスパンで環境と農業のバランスを考えていくことに他ならない。その時、目先の経済効率第一主義や、自分たちさえ儲かればいいという考えは何の役にも立たない。大事なのは、自分たちの時代以降がどうなるかを考えること。自社の後継者を作るということではなく、当麻農業の将来を考え、その一翼を担う人材を育成することが重要である。それは有機農業が持続的農業と言われる所以だと、そしてそれこそが農業生産法人に与えられた最も重要な社会的義務の一つだと考えている。


法人設立から2年半が経過した。 スタートした第一の動機が自分たちの生き残りであったことを物語るかのように、正直言って共同経営の共生的な魅力よりも難しさを実感した年月だった。 我々メンバーは「手本がない共同経営に乗り出したのだからすぐに軌道に乗るわけがない」と異口同音に語る。メンバー全員焦りもなく、表情は明るく、また結束力も堅い。 今まで2年半やってきて、酸いも甘いも少しずつ分かってきた。困難にぶつかっても経営のどの部分を、販売の方法や生産の仕組みをどう改善すべきかも含めてすればいいのか少しずつ読めるようになった。問題を抱えながらも確実に実績を残せたと実感できている。その感触が一番分かるのはお客様の反応を直に感じたときである。誰が自分の作ったものを食べているのか分からない農業者の時代を長く経験しただけに、お客様の顔が見える今は全ての情勢も客観的に読みとれる。 ニーズを求める人達、そして時代が起こす追い風を強く感じている。農業のみならず、政治、社会が混迷の時代、しかし我々が掲げる共生の理念、それを心に置いたときに農の夜明けはすぐそこにあると言えるだろう。

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